「今日会って、きっちり別れろ。んで、もう二度と会うな」
「会うなって」
声も震える。
会うなって、会うなって?
そんな里奈に向かって、一歩踏み出す聡。
「お前がいると、美鶴がダメになる」
そうだ。美鶴は本当はもっといい奴で、楽しくって明るくって…… 可愛い奴なんだ。
なのにこんな女がひっついてたせいで、美鶴はあんなに変わってしまった。
「お前、美鶴に会うなよ。今日会って、きっちり離れろ」
「そんなっ」
たとえ相手が威圧的な聡であっても、抗議せずにはいられない。
美鶴と離れる?
「そんな事、できない」
「なんで?」
「美鶴と離れるなんて、そんな事っ」
「なんで? 今までだって、二年くらい会ってなかったんだろ? お前にだって、美鶴はもう必要ないんだろ?」
「そんな事ないっ!」
叫ぶ里奈に、さすがの聡も絶句する。
「そんな事ない」
呟くように繰り返す。
確かにしばらく会ってはいなかった。だがいつも、いつかは会いたいと思っていた。
いつかは逢えると、思っていた。
美鶴と決別する。
「そんな事、できない」
「お前さぁ」
もう一歩踏み出す聡を見上げ
「そんなの嫌っ!」
ありったけの声で抗議する。
「美鶴と離れるなんて、そんなの嫌。絶対に嫌っ!」
「今までだって、離れてたようなモンだろっ!」
「違うもんっ!」
「何がっ!」
「私と美鶴は一緒だもんっ」
そうだ、美鶴と私はいつも一緒だ。いつもいつも、一緒だった。
今は離れてしまっていても、いつかはきっと、また逢える。
また一緒に遊べる。一緒に歩いて、一緒に笑って、きっとまた自分を助けてくれる。
助けて欲しい。
里奈の頬を、涙が流れる。
美鶴の側に居させて欲しい。美鶴の腕に捕まっていたい。
美鶴がいないと私、何もできない。
怖い。学校に通うのが怖い。同級生が怖い。今目の前にいるこの男子も怖い。
世の中が怖い。
美鶴がいないと、何もかもが怖い。今日、唐草ハウスの外に出るのだって、本当はすごく怖かった。
「美鶴がいないと、私ダメ」
「いい加減にしろよ」
うざい奴。
「お前、自分の存在がどれだけ美鶴に迷惑かけてるのか、わかってんのか?」
「そんな事、わかってる」
「わかってねぇよ」
「わかってるもんっ」
「わかってたらっ!」
我慢しきれず聡は怒鳴るが
「でも美鶴と離れるなんて、そんなの絶対にできないっ!」
ヒステリーのようにそう叫び、里奈は背を向けて走り出した。
「おいっ!」
聡の声に振り向きもせず、全速力で走り去る。その後ろ姿に、聡はチッと舌を打った。
サイアクだな。
辟易とした気分で顎をあげる。
里奈の裏切りは美鶴の誤解だった。だから、二人の仲は修復しようと思えばできない事はない。
多くの人間はそう思うだろう。だが―――
「もう無理だよ」
憮然とつぶやく。
すっかり離れてしまった二人だ。いまさら仲直りしようなんて、無理な話なんだ。
それに、別にいまさら仲直りする必要もないんじゃないのか?
美鶴に依存するだけの里奈。また美鶴の周囲を衛星のようにチラつかれるのかと思うと、聡はうんざりする。
あんなヤツ、いない方がマシだ。
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